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くだらないトリビア

コメントでいただいた「くだらない」の語源について、非常にしばしば、「「くだらない」の語源は「百済ない」である」という言説を見聞きします。

昔、私が韓国に行く前に購入した90年版「地球の歩き方 韓国」にも堂々と、「百済にないものはくだらないものだというのが、「くだらない」の語源である」などと明記されていました。

ですが、既にコメント欄でご指摘の通り、「くだらない」には明白な語源があります。

かつて「上方(=京都・大坂などの畿内)から江戸へ送られるもの」を「くだりもの」と呼んでいました。落語にも「くだり酒」が出てくる噺がありますが、「上方」というブランドに加えて、輸送費という経費が上乗せされることもあり、当時「くだりもの」と言えば高級品の代名詞でもありました。

これに対して、「上方から江戸へ送る値打ちもないもの」「上方ブランドではないもの」を「くだらないもの」と呼び、「つまらないもの」の意としたわけで、「百済」とは全く関係がありません。要するに「くだらない」を「百済」と関連付けるのは、単なる駄洒落なのです。

そもそも、「百済」を漢字の音の通り素直に「ヒャクサ(ザ)イ」あるいは「ハクサ(ザ)イ」と読んでおれば、こういう駄洒落は生じなかったでしょう。

「高麗」「高句麗」「渤海」などは基本的にそのまま読んでいますし(高麗をコマと読む例はありますが)、「新羅」の「シラギ」も少々不思議な読み方ではありますが、「百済」ほど原音から遠くはありません。

何故「百済」だけが「クダラ」という、漢字の原音からかけ離れた音で読むのでしょうか。

「百済」は、素直に読むなら「ヒャクサ(ザ)イ」あるいは「ハクサ(ザ)イ」であるということは既に述べました。中国語では「Bǎi jì(バイジー)」であり、朝鮮語では「baegje(ベグジェあるいはペクチェ)」と発音します。いずれも現代語音なので、百済国が存在した頃の音と全く同音ではないかもしれませんが、それでも「クダラ」につながる音ではありません。

このことは日韓の歴史や朝鮮関連のことを記した書籍でも、単に「謎」として放置され、本腰を入れて解明しようとしているものを見たことはありませんでした。ところが少し前、日本の氏姓を調べていた時に、この「謎」の答えにかなり近いと思われる説を目にしました。

上代の日本では、百済との交流は比較的盛んでした。それは物に限りません。人の往来もです。

何しろ当時の日本では、百済国王の実子を質として預かるほどでした。それに伴って、その従者や縁者、あるいは商人や食い詰め者、奴婢などが大量に日本に渡来したことは想像に難くありません。

更に質として預かった百済国王の子二人のうち一人は、百済国が滅亡に瀕した際、再興のため朝鮮半島へ戻りましたが、残る一人はそのまま日本に帰化し、百済王(クダラノコニキシ)家の祖となったぐらいです。名もない百済人ならば、どれほど日本に流入し、定着・帰化したことでしょうか。

百済が朝鮮半島で勢力を保っていた頃、肥後の国に火葦北国という地がありました。現在の熊本県八代郡坂本村久多良木とされます。当地は大伴金村に仕えた当時の豪族、葦北阿利斯登の本拠地であったといいます。

この葦北阿利斯登の子である日羅は、百済国で達率という高官(百済の官制においては佐平に次ぐ第二位の高位)に着くほどでしたから、この地と百済国との関わりは相当に濃密であったことが伺われます。当然その地には、百済国から帰国した日本人や、百済国から渡来した百済人が少なからずいたことでしょう。

そういう関わりから、この「久多良木」という地名が「百済」に掛かって、「久多良木の百済」となり、やがて「百済」をそのまま「クダラ」と読ませるようになったという説です。

こういう例は、案外珍しくありません。「飛ぶ鳥」と書いて「アスカ(明日香)」、「春日」と書いて「カスガ(霞掛)」、「日下」と書いて「クサカ(草香)」、「長谷」と書いて「ハツセ→ハセ(初瀬)」と読ませているのは、概ねその類例といいます。

さて、上記「何故百済をクダラと読むのか」とについては、実は調べた内容のかなりの部分を端折りました。何故なら、詳細に調べれば枝葉はどんどん広がり、収拾がつかなくなると言うか、付け焼刃の知識では追いつかなくなったからです。それでも、上に書いた「相当に端折った分」を居酒屋談義で話せば、大演説となるでしょう。

それに引き比べると、「「くだらない」の語源は「百済ない」だ」という駄洒落は、実に簡単明瞭です。小学校低学年の子でも、駄洒落としてなら十分理解出来るでしょうし、健忘症でもない限り、一度聞いただけで記憶出来ます。それ故に、広く人口に膾炙しているのでしょう。

これを単なる駄洒落と承知の上で用いる分にまで野暮は言いたくありませんが、どうも朝鮮関連については、無邪気な駄洒落にまで不純な思惑を絡ませ、話をややこしくさせる輩が多いという現実があります。

故に野暮は十分承知の上で、「くだらない」の語源を「百済ない」だと言う人を見かけたら、いちいち以上の「何故百済をクダラと読むか」というトリビアで対抗してみようと思っています。



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