日韓間の「信頼プロセス」において韓国が目指すもの
ところで『信頼プロセス』とは何でしょうか。
これは朴槿惠大統領の選挙公約にあった「朝鮮半島信頼プロセス」からきた言葉です。朝鮮半島最大の課題である南北統一に向けて、北朝鮮と韓国の信頼を構築していくことを意味するようです。
韓国ウォッチにおいて常に気をつけていなければならないことのひとつに、彼らの用いる言葉が、必ずしも私たちが用いるものと同じ意味で用いられているとは限らない場合が非常に多いということがあります。
日本語と朝鮮語は語順が似ており、その上現代韓国語には日本語由来の言葉が豊富に含まれているために、機械翻訳の精度も他言語と比較すればかなり高いので、ちょっと気を抜くと韓国人の言葉を日本語の意味で理解してしまうことがしばしばあります。それが日韓間の相互誤解の温床になっていることは、おそらく事実でしょう。
例えば「約束」という言葉があります。普通、私たちはこれを「当事者間で取り決めたこと」等と理解します。けれど韓国人は違います。もちろん韓国語の辞書にはそのように載っているのですが、韓国人が「約束」という言葉をどのように理解しているかは、以前ご紹介したとおりです。
この「信頼プロセス」という言葉も、語義通りであれば、「信頼(を構築していく)過程」という意味で理解するべきでしょう。
ですが私はよく訓練された韓国ウォッチャーなので、彼らが言う「信頼」も「プロセス」も、語義通りであるとは俄に信じられません。ですので、この「信頼プロセス」という言葉を、韓国人がどのように理解しているかを一応調べてみました。
朴槿惠大統領が言う「朝鮮半島信頼プロセス」のモデルは、ドイツと北朝鮮との関係だそうです。
即ち「ドイツは北朝鮮と協力事業を進める時、互いの約束を北朝鮮が破ればそれ相応の措置を取り、北朝鮮に『ドイツとの約束は絶対に破ってはならない』という認識を持たせるようにした」「一貫性を持って政策を推進し、北朝鮮が誤った時には『代価を支払う』と考えさせなければならない。北朝鮮が国際社会とした約束を必ず守るようにしなければならない」ようにしたというのが、韓国で言う「信頼プロセス」の意味と理解すれば良いでしょう。
しかしこれは「信頼(関係の構築)過程」なのでしょうか。私にはどうしてもそうとは思えません。これはむしろ、ゼロ・トレランス方式というべきではないでしょうか。
韓国の唱える「朝鮮半島信頼プロセス」とやらが、実際は「対北ゼロ・トレランス方式」であっても、それは別に良いでしょう。むしろそうあるべきでしょう。韓国に出来るのであれば、ですが。
問題は、韓国がこの「信頼プロセス」とやらを、「日本に対しても必要である」と新しい駐日韓国大使が発言したことです。
韓国の言う「信頼プロセス」とやらを実施するには、まず実施する方が十分に信頼に値する、即ち、規則や条約を墨守するという前提が絶対に必要です。自分は規則や条約を守らないのに、相手に守れと言っても説得力がありません。
「朝鮮半島信頼プロセス」において、北朝鮮と韓国のどちらがより規則や条約を墨守するかについては、なかなか難しい比較になりますが、もはや失うものなどほとんどない分、怖いものなしの北朝鮮よりは、経済的に豊かになった分、守るものが多いであろう韓国の方が、規則や条約を守ることに対する圧力が効くという点で、わずかにまだマシと言えるかもしれません(そういう意味で、国際社会の韓国に対する「信頼プロセス」は、少なくとも北朝鮮に対してよりは成立しているのかもしれませんw)。
しかし比較が日本と韓国であればどうでしょうか。これは今更理由や根拠を提示するまでもなく、自信と確信を持って、日本の方が圧倒的且つ絶対的に、韓国よりも信頼の置ける国であり、民族であると断言出来ます。
「信頼プロセス」であれ「ゼロ・トレランス方式」であれ、より高い信頼を置ける方から、信頼に欠ける方に向かって行なうものです。その逆など成立するわけがありません。
にもかかわらず新駐日韓国大使からこういう発言が出てくる理由は、韓国人には【韓国(=ウリ)は絶対的に正しい】という普遍的確信があるからです。
事実新駐日韓国大使が韓国記者団との懇談において「正しい発言だけをすればよい」と述べた上で、「日本が正しい歴史認識を持ってこそ信頼が築かれる」「どうすれば日本の歴史認識を正しくできるか悩んでいる」と言い、日韓間に韓国が主導する形での「信頼プロセス」が必要と発言しているのを見れば、韓国人が【韓国(=ウリ)は絶対的に正しい】と確信しているのは明らかです。
日韓国交正常化以後現在に至るまで、日本側は一貫して「それぞれの国や立場で歴史認識が異なること」を認めておりますが、韓国は一貫して、韓国人の歴史認識こそが唯一絶対に正しい歴史認識であるという考えを譲ろうとしません。これでは日本が考えるような「相互の信頼関係の構築」など実現するはずもありません。と言うか、元々韓国側は、「【相互の】信頼関係の構築」など目指してはいないのでしょう。
韓国人にはあまねく広く「日本は道理がわからない聞き分けの無い子供同然の国」という印象があり、それは韓国が北朝鮮に対して持っている「同胞だが道理が通じず、感情次第で何をしでかすかわからない国」というイメージと近いものがあるようです。だからこその、「南北関係だけでなく韓日関係にも、『信頼プロセス』が必要」という発言なのでしょう。
日韓間の「信頼プロセス」とやらにおいて韓国が目指すのは、日本側の韓国に対する絶対的信頼の構築でしょう。それは換言すれば、日本側の韓国に対する無条件絶対服従なのです。
それを踏まえた上で新駐日韓国大使の発言を読めば、やはり日本が考える友好の実現を韓国相手に目指すということは、永遠の徒労なのだなと、改めて実感した次第です。