南北統一のシナリオが変わってきた
金正日の時代であれば、北朝鮮から朝鮮戦争再開もあり得ると思っていました。それだけの気迫と狂気が、金正日にはあったように思います。少なくともそう思わせるだけの背景が、金正日にはありました。
会社などでも、三代目で潰れると言われることがよくあります。創業者は、とにかくなりふり構わず自らも泥をかぶり、汗も涙も流しながら会社を立ち上げます。二代目は創業者の苦労を目の当たりに見ているために、創業者が創り上げた会社を無事に維持し、更に発展させることに腐心します。
ところが三代目が継承する頃には会社はすっかり安定して、三代目当人は生まれながらに恵まれた生活に浸りきってそれをありがたいとも思わず、初代・二代目の苦労を実感として理解出来ず、創業者や二代目と労苦を共にし、会社を支えてきた従業員を下僕のように扱い、結果会社の維持が疎かになるためだそうです。
北朝鮮も当代で潰れるかどうかはわかりませんが(そもそも私は北朝鮮の体制が三代目まで維持され、継承されるとは思っていませんでした)、苦労知らずのボンボン三代目が、本物の戦争に踏み切るだけの気合と根性を持っているかどうかには、かなり強い疑問があります。
韓国との戦争を再開して、仮に勝てたとしても、朝鮮半島全土を掌握統治するほどの器量が北朝鮮三代目にあるとも思えませんし、そうしたところで三代目とその周辺の生活が保証されるかどうかは未知数です。しかし現状を維持し続ければ、三代目とその周辺だけは今までどおりの何不自由ない生活が保証されるわけです。
北朝鮮の現状が維持されれば、北朝鮮人民は引き続き塗炭の苦しみを味わうことになりますが、それでも北朝鮮人民が三代目を支持する限り、三代目個人としては韓国と戦争することで得られるメリットはあまり考えられません。戦争に負ければ悲惨な破滅が待っていますし、勝ったとしても体制を覆そうとする勢力を5千万も抱え込むことになるわけです。統一直後は今の北朝鮮より経済的に良くなるかもしれませんが、問題はそれを維持出来るかどうかでしょう。
韓国としても、時々思い出したように南北統一を口走りますが、本音は現状維持を望んでいます。現状でも、韓国国民の生活は必ずしも豊かではありません。そこへ飢えた北朝鮮人民2千4百万人を抱えることになれば、韓国経済は破綻という言葉が生温いほどのダメージを蒙るでしょう。
よく韓国人は、「統一すれば韓国は安い労働力(北朝鮮人民のこと)が手に入る」などと言います。それは「韓国人は頭脳労働などの楽で高収入の仕事をして、キツイ・キタナイ・キケン(韓国では3D(Dirty、Dangerous、Difficult)と言うそうです)な労働は北朝鮮人民にやらせる」という意味なのですが、北朝鮮人民も韓国人も同じ朝鮮人です。韓国人がやりたがらない仕事を、北朝鮮人民が喜んでやるはずがありません。
今でも、韓国では就職出来ない(出来ても、待遇面で不満な職には就かない)若者が溢れかえっているというのに、そこに北朝鮮人民が雪崩込めば、凄まじい雇用の奪い合いが起きるのは火を見るより明らかです。
ほかにも南北朝鮮が統一した場合の問題は山のようにあります。そのための対策を、現在の韓国は一切準備しておりません。結局、口先では「南北統一は民族の悲願」と言いますが、彼らの本音は現状維持なのです。
そんな韓国に朝鮮半島の統一など出来るはずがないというのが、昔からの私の考えでした。ですから、もし朝鮮半島が統一されるとすれば、北主導で行なわれるだろうと思っていました。
しかし北朝鮮の体制が三代目に継承されてからというもの、北主導の朝鮮半島統一というのも、かなり考えづらくなってきました。金正日が韓国を火の海にすると言えば、本当にやりかねないという気がしましたが、金正恩がどんなに大言壮語を吹き散らかしても、気迫が全く伝わってこないのです。ある意味、正恩は正日ほど狂ってはいないということなのかも知れません。
以前、私は「北朝鮮主導による南北統一後、南北揃って中国に併呑されるのが最も現実的且つ理想的」と考えておりましたが、こうなってくると、その考えも改めなければならないという気がしてきました。
ですが韓国主導の統一が考えづらいのは今も変わりません。更に北朝鮮主導の統一が考えづらくなってきたとなれば、統一以前に南北まとめて中国が吸収してしまうのが一番現実的かとも思うのですが、その口実と言うか大義が思い浮かびません。
ただ南北朝鮮を統一するには、とんでもなく大きな力を持つ人物なり国なりが、周辺の非難や批判、多少の被害を物ともせず、朝鮮人を力で屈服させて独断専行的に無理やり強引にやるのでなければ成就しないだろうなという気はします。
そういう存在でなければ、朝鮮人をまとめたり従えることなんか出来ませんから。